春になると、毎年恒例の行事がある。母・サナエちゃんとの山菜取りだ。
「今年で最後」が毎年続く
サナエちゃんは毎年こう言う。
「もうこの歳で山に行く人なんていないから、今年で最後ね」
でも毎年行っている。そして毎年、出発の何時間も前から準備を始め、こちらを急かしてくる。他の用事はすっかり忘れるのに、山菜のこととなると記憶力が全開になるから不思議だ。
車窓から始まる春さがし
車で道東の山へ向かう道中も、サナエちゃんはずっと窓の外を眺めている。
桜の咲き具合、道端に咲く花、芽吹いてきた木々……目に入るものひとつひとつに声をあげて喜ぶ。その横顔を見ていると、こちらまで嬉しくなってくる。

現地に着いたら目が離せない
現地に着いた途端、サナエちゃんのスイッチが入る。目にも止まらぬ速さで山菜を摘み始めるので、目が離せない。
介護職をしている身としては、これは半分見守りでもある。ただ、私自身も山菜取りが好きなので、一緒に楽しみながら付き合っている。
今回の収穫はコゴミ・ウド・タラの芽の春の三点セット。北海道道東では例年5月上旬〜中旬が一番の採り頃で、コゴミは渓流沿い、タラの芽は林道脇、ウドは日当たりのいい斜面でよく見かけます。



乱獲しない、が私のルール
サナエちゃんはできるだけたくさん採りたがる。でも私は乱獲には賛成できない。
山菜は自然の資源だ。根こそぎ採ってしまえば来年は生えてこなくなる。
「週末も来られるんだから、一回にたくさん採らなくていいよ」
そう言い聞かせながら、今回は1〜2回分の量にとどめた。場所を変えながら何度も楽しむ方が、長く山菜取りを続けられるし、私はそのスタイルが好きだ。

帰宅後はさっそく春の味覚を堪能
採れたての山菜を使った料理はシンプルが一番。
| 山菜 | 料理 |
|---|---|
| コゴミ | お浸し・胡麻和え |
| タラの芽 | 天ぷら |
| ウド(葉) | 天ぷら |
| ウド(茎) | 酢味噌和え |


サナエちゃんは採ってきた山菜を前に、本当に嬉しそうにしていた。自分の手で採って、自分で食べる。シンプルだけど、これ以上の贅沢はないかもしれない。
また来年も、一緒に
天ぷらを揚げていると、サナエちゃんが「これはタラの芽、こっちはウドの葉ね」と、採ってきた順番まで覚えていて教えてくれる。さっき何を食べたかは忘れてしまうこともあるのに、山菜のことだけは驚くほど鮮明なのだ。
「美味しいねぇ」と何度も言いながら箸を進める母を見ていると、介護とか見守りとか、そういう肩書きはどこかへ行ってしまう。ただの母と息子の、春の食卓だ。
介護職員として多くのご家族を見てきて思うのは、こうした「一緒に何かをする時間」そのものが、何よりの介護予防になるということ。手を動かし、季節を感じ、誰かと笑う。それは脳にも心にも、きっといい。
「今年で最後」と言いながら、来年もまた、私はサナエちゃんを急かされながら山へ向かうのだと思う。その「最後」が一年でも長く続くように、これからも春が来るたび、二人で山を歩きたい。
同じ5月の道東、こちらは一人で川へ行った日の話です。仕事の疲れが溜まってきたな、と思ったら川に行くに限る
サナエちゃんとの暮らしの話は、同居1か月半、母の日課は畑と洗濯になりましたに書いています。


